「手話には語源があるの?」とよく質問される。
私は手話を学んで久しいが、ろう者から語源について聞いたのは、旧東京教育大学付属ろう学校の大原先生以外にはない。
逆に考えれば、音声言語の「犬」は何故「イヌ」か学んだことはない。お互い意識しなくても、自然に学ぶものには語源など気にしないのらしい。
しかし、手話は視覚言語なのだから、おまけに国が関与して作った言語ではないのだから、ろう者が納得しなければ広まらなかっただろう。
ろう者が納得した「手話作りの基」を、大原先生の「手話の知恵」を紹介しながら、私の経験を含めて考察してみたい。
注意していただきたいのは、手話の語源には諸説ありますので、これが正しい、これが間違いとは言わないで下さい。
言 葉 | 語 源 |
恋(こい) | カルピスから作られたというのが大原説。カルピスの宣伝に「初恋の味カルピス」の宣伝文句と 琺瑯看板に黒人がカルピスを飲んでいるものがあり、二人でカルピスを飲む状況からとのこと。 現在は、ハートの上の部分を表現していると説明している場合が多い。 |
長男 | 領地、土地を全て貰う者。現在の手話は異なっているが年配者にはこの表現をする人がいる。 |
出来ない | 切羽詰まる。抜き差しならない。今では「難しい(ホッペをつねる)」の手話で表現することが多い。 |
再び,元に | 元の鞘(サヤ)に収まる |
お茶 | 茶の葉を筒状の紙袋へ入れるしぐさから。今は急須で注ぐ仕草が多いが。 |
似る、◯◯みたい | 家族は顔が似ているから。昔はYを交差させ離したようだが、今では小指だけて表現している。 |
失礼 | 両手を畳につけて、それを弾くしぐさ。畳に両手をつけねのは礼儀があるので、手を上へ弾く。 現在では「すいません(迷惑をおかけしました)」での表現が多い。 |
残り、残る、余り | お米の残りをしゃもじでかいているしぐさから。ちなみに「お釣り」もこれを使う。 |
簡単 | つば一滴を手のひらに乗せること。それが泡沫(力の無いもの)を意味し、それが簡単となった。 |
得意 | 牛若丸が宙を飛ぶ術を習った鞍馬山の天狗から。 |
自慢 | 鼻を高く伸ばす。 |
良い | げんこつを鼻先につけて少し鼻を伸ばすしぐさ。この三点は天狗の鼻が語源で、微妙に使い分けた。 |
いがみあい、口論 | いがみ。「い」イヌの意。がみは「噛み」。ぴったりつければ「仲間」に手話が変身する。 |
平気 | カエルの面に水、とかカエルの面に小便から。 |
しあわせ | 顎をなでるしぐさ。別には恵比寿さんの髭説も。以前は顎を撫でていたので、恵比寿さんは後付か。 |
不幸 | 上記の仕草を撫でるのではなく、前にはねる仕草をする。 |
待つ | 首を長くして待つしぐさから。指文字のキをつければ「期待」。これは新作手話。 |
恥 | 芝居の切られ与三から。羽子板の負けは、墨で☓を顔に書くからと思ったが違うのか。 |
居直る | 弁天小僧のケツをまくるシグサから。 |
凄い | 四谷怪談のお岩さんの凄い顔から。 |
大切 | 手中の玉。自分にとっての宝物。ほほを撫でるしぐさは、片時も肌身から離さず頬に抱くしぐさから。 |
早い | 矢が飛んでゆく様から。 |
ずるい | 逆撫でから。 |
正式 | 裃の形から。 |
準備 | お膳立てから。 |
とんでもない、くだらない | 昔の身分制度から。下衆、手下、下僕、下男とみんな下の字がある。 |
なんにもない | 無い袖はふれぬから。 |
お世辞 | 人を舐めるしぐさから。 |
互角、対等 | 五分五分から。 |
茨城 | 井伊直弼を襲った水戸藩(茨城)士の蓑姿から。 |
恥ずかしい | 鼻が縮こまってゆく姿から。 |
騙される | 口をパックリ開けて釣られるから |
邪魔 | 目の上のたんこぶ |
得 | 招き猫から。 |
嘘 | ホッペに飴を入れて膨らませたシグサから。舌でホッペを膨らます。昔の子供は騙された? |
本当 | 口を割る=本当の事を話すからと大原さんは書いている。色々考え方はあるようだ。 |
ありがとう | 相撲の懸賞金の受け取りからが一般的だが、大原さんは骨折りに対する感謝からとしている。 |
決断、決定 | 腹を据(ス)える。腹を固めるから。 |
仕方がない | 皮を切らせて肉を切り、肉を切らせて骨を切りから。 |
おめでとう、お祝い | 大原さんは年配の方の門松説を支持。その他花火、花束、篝火、花道等沢山の説がある。 |
手持無沙汰(孤立している様) | 仏像の形を表現しているが、石の地蔵さんを表しているとのこと。 |
仮に(アルバイトにも使用) | 外見、外から見た様子で中がわからない。 |
かまわない、いい | 小指くらい切ってもかまわない、指きりげんまんから。 |
真似 | 優れた人の知恵を自分の身につけるから。 |
大変 | 天秤棒で、親指が分銅の役目。天秤棒で目方を量っている様から。 |
説明 | 扇子を畳に小突いて話を進める昔の評定から。私は口で説明している様かと思ってました。 |
うわさ | 人々の話が町から町へ広まってゆく様から。昔は「町+噂」だったが、今は町を表現しなくなった。 |
新聞 | 瓦版の呼びかけ身振りから。 |
やめる | 一刀両断に断つから。身振りとしてみんなが使っている。 |
辞める | 書類捺印→提出→身を引く動作をまとめてもの。 |
なまける | ①井戸水を大儀そうに汲み上げる。②杵をうまくつけない様から。 |
おかしい | 口の中にひそんでいるもの。固く閉ざした扉の奥に隠してある正体を不思議がる様から。 |
注意 | ①褌をしめる。②拳=念から拳を2つ重ねて念には念を入れるから。③拳拳服膺から(教育勅語) |
さっぱりわからない | 一寸先は闇。鼻先分別。目と鼻の先。開いた本を顔にくっつけることを語源とした等色々ある。 |
道徳、常識、倫理 | 楠正成が息子に短刀を渡す様子から。戦前は楠木正成は忠義の英雄として本に載っていた。 |
神戸 | 楠正成の菊水の紋から |
くせ | 育ち・環境などで見に染まったもの。 |
新しい | 泥中の蓮から。新田義貞が黄金作りの刀を海に投げ入れた様。私は光るからかと思っていました。 |
珍しい | 目の前で新しい手話を表現する。目+新しい=目新しい |
上手・下手 | 和裁の袷等がうまくできた様を上手、下手な場合は格好が悪くなるから。和裁教育から生まれた。 |
誰 | ①顔の特徴を聞くシグサ ②盲ろう学校時代の盲人がろう者を誰か確認するシグサから。 |
新米(新人、未熟) | 船員の制服に入る線の数を表す。線が多いと幹部、一本は新人。 |
特別 | 軍人や警官の特別功労賞の印から。 |
理事(今は指文字) | 地球儀→地理→理事(理の字を取って、地球儀を表して理事とした。) |
遊び | ①子供のチャンバラゴッコから ②鬼ごっこ ③竹馬遊びから |
文 | 福島説は手紙をポストへ入れる様から。大原説は両手の交差は綴るサマを表す。文の形から説も。 |
不足 | ①片足がない ②顎が干上がるの2つの表現がある。 |
好き | 喉から手が出るから。 |
痛い | 筋肉の痙攣から |
退屈 | あくびから |
大丈夫、出来る | 胸を張るから |
欠点、手落ち | 手落ちをそのまま手の動きにしたもの。手直しは手落ちの逆。 |
難しい | 首をひねる、頭をひねるからか?諸説あってむつかしいと大原さん。 |
都合・運 | 易者の筮竹から。 |
意味、内容、何故 | 隠れている中の物はなんだろう?から |
原因、起源 | 地面から新芽が出ている様から |
古い | 口の上に10の形から説、汚いから説 |
分かる | 相手の話が呑み込める。または腑に落ちるから。 |
違う | カルタをめくる様から |
色々 | 違う+違う+・・で色々。これも様々な絵や文字の揃ったカルタ説が大原さん。 |
はじめ | 神話の国作りから。その他に炎説、ろうそく説、盛り塩説、一という説あり。 |
研究、工夫 | 昔、両手を縛って縄抜けで遊んだことから。 |
驚く | 漫画で驚く表現を「目が飛び出る、飛び上がる状況で表現していた。」から |
間違い | 昔の表現は「目を左右入れ替えていた」目を違えるからか? |
生涯 | 生まれてから死ぬまで。現在は新造手話が普及している。手話の本から学んで下さい。 |
友達、仲間 | 握手から |
終わり | 海の中へ沈み隠れ、見えなくなる説。ろうそくの炎説等あります。 |